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仙台地方裁判所大河原支部 昭和38年(タ)3号 判決 1963年8月29日

原告 高子まさ子

被告 高子留雄

主文

一、原告と被告とを離婚する。

一、原告と被告との間に出生した長男正雄(昭和二三年四月一日生)、長女マサノ(昭和二五年七月二六日生)、三女静子(昭和三〇年八月四日生)の親権者を原告と定める。

一、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、「原告と被告とを離婚する。原告と被告の子である長男正雄(昭和二三年四月一五日生)、長女マサノ(昭和二五年七月二六日生)、三女静子(昭和三〇年八月四日生)、二男信之(昭和三五年一〇月九日生)の親権者を原告と定める。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、大正一四年八月一七日宮城県刈田郡大鷹沢村大字三沢字落合九九番地において出生し、昭和二三年一月頃被告と結婚式を挙げて白石市に同棲し、同年三月三一日婚姻の届出をした。

二、被告は、生来勝負ごとを好み、また放浪癖があつて、結婚後も数度家を出たまま二、三年間帰宅しないことがあつた。昭和三〇年七月頃被告は、原告に対し、「働きに行つてくる」と言い残したまま、最後の住所である宮城県白石市外河原四二番地の住所を出奔し、それ以来消息を絶ち、原告において同年九月か一〇月頃白石市警察署に捜索願を出したけれども所在が判明せず、現在に至るまで全く音信なく、既に七年以上も生死不明の状態にある。。よつて、原告は被告との離婚を求める。

三、原、被告間には請求の趣旨掲記のように正雄、マサノ、静子が出生している。なお、このほか被告が行方不明となつた後である昭和三三年一二月頃から原告は訴外斎藤二郎と同棲し、同人との間に信之(昭和三五年一〇月九日生)が出生したのであるが、原告は被告と婚姻中であるため、右信之は原、被告間の二男として入籍されている。そこで前記のように被告が長年生死不明の状況にあるから、原告、被告間の未成年子である前記正雄、マサノ、静子および戸籍上の原告、被告間の子である信之の親権者を原告と定めることを求める。

と述べた。<立証省略>

被告は「公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

理由

一、公文書であつて、その方式、趣旨により真正に成立したと認められる甲第一号証によれば、原告と被告は昭和二三年三月三一日婚姻をしたことが認められる。

二、そこで離婚原因の有無につき判断するに、証人高子秀雄(被告の実兄)、同斎藤二郎(原告の内縁の夫)の各証言、原告本人の尋問の結果および公文書であつてその方式、趣旨により真正に成立したと認められる甲第三号証の記載を綜合すれば次のような事実を認めることができる。被告は原告と結婚当時土工をしていたが、その後何回か職を変え、しかも勝負ごとにこつて家計をかえりみないことが多く、その上時折放浪する性癖があり、結婚後二度ばかり家を出たまま二、三年間所在不明となつたことがあつた。そして昭和三〇年頃「働いてくる」と言つて家を出奔し、それ以来全く音信がなくなつてしまつた。原告および被告の実家では、親戚や知人に消息を問い合わせたり、警察に捜索願を出すなど八方手を尽して所在を探してみたのであるが、現在に至るまで約七年間も被告の所在が不明である。以上のような長期間に亘る所在不明は、少なくとも被告が三年以上生死不明の状況にあることを推認せしめるものであり、民法七七〇条一項三号の「配偶者の生死が三年以上明かでないとき」に該当する。そして原告に対し、被告と婚姻を継続させるのを相当とする事情は見あたらず、かえつて前掲証拠によれば、原告は訴外斎藤二郎と既に四年以上も内縁関係にあり、その間に信之が生れていること、原告の子供らも同人によくなつき、同人もこれをかわいがつていることが認められ、その上同人はその法廷における証言態度からみても極めて誠実な性格を有しているものと認められるので、原告及びその子の幸福を図る見地からしても、本件離婚を認めるのが相当である。

三、次に原告の求める親権者の指定について判断するに、前示甲第一号証公文書であつて、その方式および職旨により真正に成立したと認められる甲第二号証の各記載、証人斎藤二郎の証言および原告本人の尋問の結果を綜合すれば、正雄、マサノ、静子は原、被告間の嫡出子であることが明らかであり、前項認定のような事情を考慮すれば、その親権者を原告と定めることが相当であると認められる。

原告は二男信之についても親権者の指定を求めるので、この点について考えてみる。前掲甲第一号証によると、なるほど二男信之は戸籍上原、被告間の嫡出子として届け出られているけれども前掲各証拠によれば、原告は被告が所在不明となつた後、仕事先で訴外斎藤二郎と知り合い、昭和三四年二月頃から同人と同棲するようになり、昭和三五年一〇月九日信之を分娩したものであつて、信之は原告と同訴外人との間の子であるが、原、被告は婚姻中であつたためやむなく被告との間の子として届出受理されたものであることが認められ、他にこれを左右するような証拠はない。ところで、民法第八一九条第二項にいわゆる親権者の指定は、離婚当事者である当該夫婦間の嫡出子(これは必ずしも戸籍上の記載にはよらず、民法第七七二条による嫡出の推定を受ける子でなければならない。)についてなさるべきものであるところ、本件のように被告が所在不明となつて既に四年以上も経過した後になつて生まれた子信之については、被告の子として懐胎する可能性のないことは明らかである(特に本件では原告は懐胎可能期間中訴外斎藤二郎と同棲している)から、民法第七七二条による嫡出の推定を受けないものと解すべきであり、従つて本件離婚を認容するにあたり信之については親権者の指定をなすべきではないのである。なお右親権者の指定は、本来家事審判事項に属するものであつて、独立して訴訟の対象たりえずたゞ子の利益のために申立の有無を問わず離婚と同時に解決するのが便宜であるとして判決の主文において附随的に判示することとされているに過ぎないものであるから、本件のように指定を必要としない場合でも、その指定申立を棄却する必要はないものと解すべきである。

四、よつて、原告の本訴請求は理由があるから正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木泉)

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